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http://www.asahi.com/koshien/95/localnews/TKY201306250255.html
〈夏への軌跡:1〉茨城 最後の歴史、9人で
午前5時45分、東京都多摩市にある京王多摩センター駅。総和高校2年の小島泰雪は、エナメルバッグを足元に置き、スマートフォンをいじりながら電車を待っていた。まだホームにいる人は少ない。
約90キロ離れた古河市の総和高校まで、片道2時間半かけて通う。京王線、埼京線、宇都宮線と乗り継ぎ、学校に着くのは8時過ぎ。帰りは、練習で疲れた体で新宿駅から満員の車両に押し込まれる。自宅の玄関ドアを開けるのは午後10時を回る。定期代はひと月約2万円にもなる。
「正直、体はきついです。でも、自分で決めたことだから」
昨年12月、家庭の事情で古河市から多摩市へ引っ越さなければならなくなった。母の美智代(50)から告げられ、小島は「絶対無理」と拳でクローゼットの扉をたたいた。中学3年の時に父が亡くなり、母が一人で生活を支えていることはわかっていた。だが、転校はどうしても受け入れることができなかった。
総和高校は古河中等教育学校に改編され、今春の入試から新入生の募集がなくなった。いまの2年生が卒業すれば、校名は消える。野球部はこの夏で廃部することが決まっている。
昨秋に発足した新チームは、部員が9人。夏の大会に出場して、「最後の歴史を飾ろう」と誓い合った。そのためには1人も欠けることはできなかった。
小島の学級担任で野球部監督の金井光信は「自分の家に下宿させてもいい。残してもらえないでしょうか」と、美智代に頭を下げた。小島は引っ越してもいいから、総和に通わせてほしいと頼んだ。2人の真剣な思いに押され、美智代は遠距離通学を許した。
年が明け、グラウンドのベンチ前に部員全員が集められた。「小島から話がある」。金井が切り出した。この間、小島は自分の置かれた状況を部員たちに伝えていなかった。「迷惑をかけたくない」という思いからだった。ただ部員たちは、職員室などで金井と話す小島の姿を見て、「野球部をやめるのではないか」と心配していた。
「俺、東京から通うことにしたから。わがままを言うことも多くなると思うけど、許してほしい」
小島の言葉に部員たちはうなずいた。主将の木下左京は「これで最後までやっていけると思えた。あいつの気持ちがうれしかった」と語る。
9人での練習には限界がある。実戦形式では、マウンドに置いた投球マシンを女子マネジャーが操作し、監督も守りに加わる。それでも、走者が出た分だけ守備側が減ってしまう。飛び散ったボールは、全員で何度も集める。
「9人しかいないから、各自が責任感を持つようになった」。金井は部員たちの成長を実感する。
練習試合のある土日。小島は前日から同学年の部員の家に泊めてもらっている。
「ずっと一緒にいたいと思える仲間たち。絆ではどこにも負けない」
一日でも長くユニホームを着る――。その願いを胸に、小島は3番二塁手で出場する。(敬称略)
(この連載は照屋健が担当します)
〈夏への軌跡:1〉茨城 最後の歴史、9人で
午前5時45分、東京都多摩市にある京王多摩センター駅。総和高校2年の小島泰雪は、エナメルバッグを足元に置き、スマートフォンをいじりながら電車を待っていた。まだホームにいる人は少ない。
約90キロ離れた古河市の総和高校まで、片道2時間半かけて通う。京王線、埼京線、宇都宮線と乗り継ぎ、学校に着くのは8時過ぎ。帰りは、練習で疲れた体で新宿駅から満員の車両に押し込まれる。自宅の玄関ドアを開けるのは午後10時を回る。定期代はひと月約2万円にもなる。
「正直、体はきついです。でも、自分で決めたことだから」
昨年12月、家庭の事情で古河市から多摩市へ引っ越さなければならなくなった。母の美智代(50)から告げられ、小島は「絶対無理」と拳でクローゼットの扉をたたいた。中学3年の時に父が亡くなり、母が一人で生活を支えていることはわかっていた。だが、転校はどうしても受け入れることができなかった。
総和高校は古河中等教育学校に改編され、今春の入試から新入生の募集がなくなった。いまの2年生が卒業すれば、校名は消える。野球部はこの夏で廃部することが決まっている。
昨秋に発足した新チームは、部員が9人。夏の大会に出場して、「最後の歴史を飾ろう」と誓い合った。そのためには1人も欠けることはできなかった。
小島の学級担任で野球部監督の金井光信は「自分の家に下宿させてもいい。残してもらえないでしょうか」と、美智代に頭を下げた。小島は引っ越してもいいから、総和に通わせてほしいと頼んだ。2人の真剣な思いに押され、美智代は遠距離通学を許した。
年が明け、グラウンドのベンチ前に部員全員が集められた。「小島から話がある」。金井が切り出した。この間、小島は自分の置かれた状況を部員たちに伝えていなかった。「迷惑をかけたくない」という思いからだった。ただ部員たちは、職員室などで金井と話す小島の姿を見て、「野球部をやめるのではないか」と心配していた。
「俺、東京から通うことにしたから。わがままを言うことも多くなると思うけど、許してほしい」
小島の言葉に部員たちはうなずいた。主将の木下左京は「これで最後までやっていけると思えた。あいつの気持ちがうれしかった」と語る。
9人での練習には限界がある。実戦形式では、マウンドに置いた投球マシンを女子マネジャーが操作し、監督も守りに加わる。それでも、走者が出た分だけ守備側が減ってしまう。飛び散ったボールは、全員で何度も集める。
「9人しかいないから、各自が責任感を持つようになった」。金井は部員たちの成長を実感する。
練習試合のある土日。小島は前日から同学年の部員の家に泊めてもらっている。
「ずっと一緒にいたいと思える仲間たち。絆ではどこにも負けない」
一日でも長くユニホームを着る――。その願いを胸に、小島は3番二塁手で出場する。(敬称略)
(この連載は照屋健が担当します)
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